つくる方はドラクエをどう思っているのか。教訓にまみれたスクエニプロデューサー座談会

「よーすぴ」ことスクエニの齊藤プロデューサーがドラクエ10を離れることになり、それを受けて、毎回骨太な対談記事を乗っけている「電ファミニコゲーマー」でプロデューサー座談会が行われました。

ドラクエ好きにはたまらない刺激的な内容だったので少しご紹介します。

【本記事はこちら】
スクウェアは貴族でエニックスはヴァイキング?人たらしでヒットに導く齊藤Pに見る“優秀なゲームプロデューサー”【齊藤陽介×藤澤仁×ヨコオタロウ×安藤武博:座談会】





2回ダメだっていうとみんな心が折れる


初っ端からドキっとする言葉が出てくるんですが、ドラクエ10をやめた後の活動について問われた齊藤Pの回答

 齊藤氏:
 『ドラクエ』じゃない変態ゲームをやる(笑)。実は『ドラクエ』の間を埋めるというのは、旧エニックスの頃からやってきたので。だから新しいことをやりたい。
 「コンソールの新しいIPとか、新しいタイトルなんて絶対に立ち上がらないから、みんなスマホでいいんじゃね?」みたいな流れを、ヨコオさんのおかげもあって『ニーア』で覆せたと思っているから。
引用:電ファミニコゲーマー


会社の役員だというのにもの凄いパワーですね

ヨコオタロウ氏と齊藤Pの「ニーアオートマタ」(PS4)は、世界累計で300万本を売り上げるという快挙を達成しました。ドラクエ・FF以外のスクエニIPの躍進は「キングダムハーツ」以来というイメージです

数年前からニーアの他にもFF15とか、ゼルダBOW、ペルソナ5、最近ではモンハンなど国産のコンソール(据え置き機)ゲームが世界的に好調で、“日本らしい”ゲームが復活の兆しを見せていて

和ゲーでも洋ゲーでも、それぞれのゲームの良いところが積極的に取り入れられ続けた結果、成熟してきたHDゲームというジャンルは、ついに国境の垣根を超えて一つの方向に向かい始めているのかもしれません。日本にもe-sportsでプロ選手が誕生したのは記憶に新しいところです。

日本人から見てもそうなんですが、最近の洋ゲーは昔と違ってやたらと親切でプレイし易いんですね。

相変わらずとっつきにくいのはキャラクターだけ

そういう時代、他とは違う独自性を持っているゲームが求められるのは当然で、スクエニのような風変りなゲームを出すことができる会社は強いんじゃないかなと思うわけです

齊藤プロデューサーと言えばドラクエ10が有名ですが、その昔、エニックスの「熱血大陸バーニングヒーローズ」や「ミスティックアーク」「アストロノーカ」に関わった人物だそうで、私としたら「うん、全部買ったわ」としか言いようがなく、“ドラクエの合間をうめる変態ゲーム”とはそういう全く新しい挑戦という意味で言っていると思われ、もう今からわくわくしかないです



続いては元スクエニ、現在は株式会社シシララ代表取締役の安藤武博氏

社内で、伝説のドラクエを基準に企画が評価されるつらさを語る場面が特に面白い

安藤氏:
 何を言っても向こうのほうがスゴイ相手に対して企画を通さないといけない時に、僕が齊藤さんから教わったのは「夜討ち朝駆けをしろ」ということですね。
 提案をペンディングされたら、次は朝一番に会社に来て待ち構えろと。それでもダメなら次は夜、相手が油断している時を襲えと。「それぐらいがんばらないとダメだよ」って、僕が22歳でエニックスに入った時に、齊藤さんから教わったんです。

それに対して齊藤プロデューサーは何と言うかというと

 齊藤氏:
 その時に言ったことは覚えてないですけど、自分が上の立場になって、企画を持ってこられた時に何にいちばん弱いかなって考えると、三顧の礼みたいなことなのかなと。
 ダメなところを指摘するのは簡単な話なので。1回目はここがダメ、ここもダメ。
 2回目はどこがダメとかも言わないでダメ。3回目もやっぱりダメなのかもしれないけど、それでも目を輝かせながら持ってきたら、さすがにダメとは言えないし、それをダメだと言う自信はないです。
 だって正直分からないですから。それが売れるか、売れないかなんて。これは今でもそうです。でもたいていは、2回ダメだって言うとみんな心が折れるんですよね。

明日から社内全員の人が企画書を3回持っていくような気がしますが、大人として思わず身につまされるような話。恐縮です

ちょと怒られたぐらいで諦めていませんか!と喝を入れられているようで、気を引き締ようと思わずにはいられません。

齊藤Pは誰よりも早く出社して誰よりも遅く帰宅するような仕事の鬼らしく、色んな調整や段取りに苦労して経験を積んできたことが伝わってくるような会話ですね

そういう経験がプロデューサーとしての力の基礎になっているんだろし、こういう人たちの情熱がドラクエのみならず、数々のスクエニ製変態ゲームを生み出して来たのだと思うとファンでよかったなと心から思いました





ドラクエ・FFは若い人たちが力をつける場

続いて、ドラクエ10に関する衝撃発言

ドラクエ10の開発を外注でやろうとしていたという藤沢氏に対し

 齊藤氏:
 それでいろいろと話をしていくうちに、今みたいに運営のノウハウもないなかで、社外の人たちと一緒に運営をやっていくのは難しいんじゃないかと。やっぱり社内で開発チームを作ろうということになって、そこから時間がかかったんですよ。
プログラマー分科会というセクションにいちいち行って、「新しい『ドラクエ』を作るので、人がほしいです」とお願いするんです。

ドラクエはスクエニブランドで売られていますが、ナンバリングゲームの開発はいわゆるディベロッパーという違う開発会社が行ってきました。

例えばドラクエ8は妖怪ウォッチで有名な「LEVEL5」が開発していますし、星ドラは「ゲームスタジオ」という会社がつくっています

 藤澤氏:
社内でやったほうがいいと提案はしたんだけど、それが具体的にどういう道のりを経てやれるのか、みたいなイメージは何にもないままお願いしたんです。
そのうち各分科会にずーっと参加し続けて、毎週関係ないのになぜかいる人みたいになって。そうやって社内で人を集めていったんです。

ドラクエほどのビッグタイトルでも会社の号令で座組が用意されないのか?という超鋭い質問に対しては

 齊藤氏:
 ないですね。さすがにこれだけ大きな組織を鶴の一声では動かせない(笑)。
 藤澤氏:
 スクエニの社内にいる開発者というのは、もともとスクウェアのスタッフでしたから。エニックス側で人がほしいと言って、そこに融通するような仕組みは当時はなかったんです。
 だから飛び込みで全部やってもらった、というのが実態ですね。

ま・・まじですか

誰もが知っている国民的RPGだと思っているドラクエですら、会社ぐるみで動けるわけではなく、こういう1人ひとりの地道な根回しからスタートしなければならないなんて驚きしかない

また、普通はレールが用意されていないのであればそこで諦めそうなものですが、この人たちのゲーム作りに対する情熱・熱量が怖いぐらいに伝わってきます

スクエニ社内では、ドラクエというポジションですら安定した聖域などでは決してないという事実に、ドラクエがいつまでも面白い理由を感じることができた気がします。



関連してもう一つ、ドラクエはオフライン、オンライン、据え置き機、携帯ゲーム機などあらゆるチャレンジを済ませており、次回作である「ドラクエ12」にかかるプレッシャーが相当なものだという話題

ドラクエ12のプロデューサーはやりたくないのか?と問われた斉藤P

 齊藤氏:
 逆にそういうもののほうがやってみたいと思うぐらいだけど、でも今は……。これは会社の役員の立場としては言えない発言なのかもしれないけど、『ドラクエ』や『ファイナルファンタジー』というのは、若い人たちが力をつける場だと思う。
 藤澤氏:
 オレから話していいですか?堀井雄二さんがいて、それ以外のメンバーは何もやったことがないヤツらでいつも作ってきたのが、『ドラゴンクエスト』だと思うんです。オレなんか特にそうなんだけど。だからこそ、そこで1回名を売った人間がずっと居続けてはいけないっていう気持ちが、すごく強くて。
 安藤氏:
 なるほど、卒業するものなんだ。
 藤澤氏:
 だって、それで自分たちがやらせてもらえたんだから。今度は若い人たちに同じ環境を残していかないと。

「ドラクエは堀井雄二氏と、何もやったことがないヤツらでつくられてきた」

ドラクエは毎回ストーリーが印象的なのはもちろん、モンスター仲間システムが登場したり、すれ違い通信が登場したりと、社運を賭けたビッグタイトルの割には斬新な挑戦を続けていて凄いなーと思っていたんですが、理由を聞けば納得じゃないですか。

堀井氏のアイディアとテキスト、それに若い人の発想と情熱で新しいゲーム体験を生み出し続けてきたのがドラクエなのだとしたら、確かに毎回続編ではありますが、毎回新作のようなものであるとも言えます

マンネリすることなく、常に新しい気持ちでプレイできたのはそういう理由が隠されていました。確かにスマホゲームである星ドラも、世界観は同じですが、今までのドラクエとは全く違うゲームに仕上がっています

そして安藤氏

 安藤氏:
 あっ、それは『FF』を作った人たちも、同じことを言っていましたね。『ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス』作る時に、筋を通さないといけないと思って、過去の『FF』を作った方々に退社された人も含めて会いに行ったんですよ。
そうしたら「『FF』はしがみつくものじゃなくて卒業するものだから、1回はやってもいいけど、これで最後にしておきなさい」って。それはみんなが言いましたね。

なるほど・・つくっている方々にとっては、「ドラクエ」や「FF」とはそういう認識なんですね

伝統と格式がありながら、常に体内で新陳代謝を繰り返している国民的ゲーム

ドラクエとFFがいつまでも好かれる理由を知ることができたような気がしました





スクエニプロデューサーの仕事とは


齊藤Pがドラクエ11に携わった時の話も面白い

齊藤氏:
 そんなわけで『ドラクエXI』をやることになったんですが、自分で直接、PS4版と3DS版の両方を見られるわけがないので。「アシスタントプロデューサーをつけようか」と言われたんですけど、問題の多い状況でアシスタントプロデューサーをやれと言われても、モチベーションを持って仕事をできるヤツなんているわけがないですから。
 だったら若くても経験がなくてもいいから、APじゃなくてちゃんとしたプロデューサーとして機種ごとに1人ずつ、それぞれ立ててくださいと。それでもし問題が起きたら全部、オレがケツを拭くからと。

ドラクエ11の岡本、横田両プロデューサーが起用された経緯を赤裸々に語っています。若い人を抜擢して力をつけさせるというドラクエ・FFのやり方を踏襲して大成功だったということを物語っています

そうはいっても、絶対に失敗できない場面で他人に任せることなど凡人にはできないもの

こういうエネルギーの塊みたいな人が「ケツを拭く」と言ってくれたなら、両氏ともそれはもう絶対に失敗できねえと命を懸ける覚悟を決めたのかもしれません

齊藤Pという人にいかに人物を見抜く力があるかということが分かりますね

 藤澤氏:
 もともと『ドラクエ』のプロデューサーって、会社に入ったばかりのいちばん若いヤツがやっていた時期があるんですよ。市村みたいに。市村を見ていたから、横田君たちがやるのを見ても「あの流れか」みたいな感じでしたよね。

「星のドラゴンクエスト」のプロデューサーである市村氏は、リメイク版を経てドラクエ8、9のプロデューサーを担当しています

星ドラ界隈ではその露出性から目の敵にされがちですが、私はドラクエ8も9もめっちゃ楽しませてもらいました

これからの星ドラにも、その時の手腕を発揮してくれるのではないかと大いに期待してます。





エニックスはロボット寿司事業をやっていた

その後、齊藤Pがエニックスに入社した時は中国で醤油を売っていたとか、インドで不動産をやっていたとか、ロボット寿司事業をやっていたとか、信じられない話が次々と飛び出すんですが、私的には、ははあ、そういう寿司ロボットのノウハウが「ワンダープロジェクトJ」に繋がるわけですかと勝手に納得してたのは置いといて

最後にヨコオ氏が日本ゲーム業界の未来について素晴らしい発言をするんです

ヨコオ氏:
 『ニーア オートマタ』のスタッフは30歳ぐらいで、『シノアリス』は30歳以下の人も多いんですけど、なんか宇宙人みたいだなと思うことがよくあって。(中略)
 イージーな言い方ですけど、デジタルネイティブですよね。生まれてきた時からデジタルの環境がある世代が、クリエイティブの本当の主流になってきたことで、初めて見えてきた答えがあるなと思っていて。
 そういう若い世代と一緒にやっていて、自分が何を残すべきかっていうのは、いつも考えていることですね。自分の技術はもう追いつけないし、残せない。

日々進歩を続けるゲームや映像技術の業界で生きていくのは何て大変なんだと思うと同時に、ドラッグオンドラグーンやニーアの世界観を見ていると、血が大好きな感じのもっとぶっ飛んだ人なのかと勝手に思ってましたが、言うことがとても理知的

ヨコオ氏:ちょっと前の日本のコンシューマゲーム業界って、北米に勝てないと思っていたんですけど、僕は今の30代なら勝てると思います。あの人たちがアメリカの予算をもらって、アメリカの人数を入れたら、勝てるという確信を持っている。そういう意味では僕は、ゲーム業界の未来にそんなに悲観してはいないです。
 そんななかで歳を取った自分が残せるもの、教えられるものは何だろうっていうのが、さっき齊藤さんが言った「ロジカルに教える」っていう部分で。ここをこうするのには意味があるんだよという、老獪な部分を伝えたいなって、すごく思うんです。

日本ゲーム大好き人間にとってはこれ以上ない嬉しい言葉

こういう人たちがこれからもスクエニゲームに関わるんだとしたら、やっぱり買わずにはいられない・・



どうもごちそうさまでした!




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4 件のコメント :

  1. こんばんはルカ父です
    ゲーム作り方の裏側を知れて満足です

    懐かしいタイトルが出てきて
    ワンダープロジェクトJは
    がっつりやったなぁとか
    懐かしくなりまたやりたくなりました✨

    ほんと
    ドラクエ毎回斬新なの
    このブログ見て納得しました
    ありがとうございます✨

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    1. ルカ父さん
      私もワンダープロジェクト大好きだったんですよ。どう考えても時代より早すぎた感じのゲームでしたが今スマホか何かで出たら絶対やっちゃいますね
      堀井雄二が関わらない可能性が高いドラクエ12でコケる可能性もありますので、ファンとしては信じて楽しみに待つのみ!です

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  2. しよさん、こんにちは
    ぽんぽこぴーです

    ドラクエもFFもナンバリングタイトルを
    つくるときは奇数と偶数でプロジェクトメンバーを別けて
    同時進行で製作するという噂を聞いたことがありましたが
    毎回違うプロジェクトメンバーで作っていたというのは驚きです!!
    エニックスとスクウェアが合併した時くらい驚きですw

    ドラクエ12・・・
    どんなかたちになってもきっと
    なんだかんだやってしまいますねw

    私はその前に11やらないいけないんですけどw

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    1. ぽんさんこんばんは
      同時進行説・・昔はあったかもしれませんよね
      1年とか2年でゲームが開発できた時代だったら効率いいかもしれません
      ドラクエ12はもう相当違うドラクエになるんでないかと期待してます
      まあ毎回そうなんですが
      PS4も今は安めで買い時っすよ!

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